Macを買ってKeynote(Macに同梱されているパワーポイントのようなソフト)を導入したとき、最初に決断を迫られました。
トリミング、トランジション(アニメーション)、写真に載せる文字を、それぞれどうするか。
写真に傷をつけないという見方をするなら、従来からあるように画面の中に余裕をとって写真を置き、それを順に送っていくのがいちばんです。カラー写真は黒か濃いグレーの背景、モノクロは白か薄いグレーの背景で。「はい、次の写真は・・・」みたいな。
写真展を上映すると考えるならこれだけれど、プレゼンなのだと考えたらメッセージを添えて伝えなければならない。文字を置くならデザインする必要がある。自分にそれができるのか? パワポさえ満足に使えなかったのに。
飽きずに観てもらうためにアニメーションの効果を使ったほうがいいかもしれない。モニターのアスペクト比と写真のアスペクト比が違うので、トリミングするか、余白を作って配置するしかない。さて、どうしよう。
ちょうどこの時期、いろんなプレゼン(写真家に限らず)を見たけれど、参考にできるものが見つからなかったです。
最初に決断したのは、借りた資料などはなるべく使わないようにして、カメラの写真も撮り下ろそうと思ったこと。ものすごく時間かかります。でもちょうどいい角度の雰囲気のいい写真は自分で撮るしかない。そう覚悟を決めました。
どこに文字を置けばいいかは、写真家としての経験がきっと教えてくれるだろう。デザイナーのヘンリー・ペドロスキーが「人はだれでも常にデザインの勉強をしている。夕食を作って盛り付けるときだってそれはデザインなんだ」というようなことを書いています。
自分も写真を撮りながら「あの人はもうちょっと右にいるほうがいいな。そしたらあの左のビルとうまく響き合うから」とか考えていることを、文字をレイアウトするときに応用すればいいんだと。カルチェ・ブレッソンにデザインの素養があったかどうかは知りませんが、どっちのレイアウトが好きかといったことは、即答できたはず。
これが2013年のこと。
もうほとんど資料ができあがっていたのだけれど、よくあるパワーポイントみたいな大事なところが赤のゴシック太字で・・・というものだったのを、あるきっかけで全て作り直すことにしたので間に合うかどうか大変でした。
それで最初に撮り下ろして文字を載せたのが今回のサンプル。
デザインをしたというよりは”形態は機能に従う”の言葉のように、機能のために文字と写真が整理された良い例だと思います。
長いおまけ。
前回の最後に、この頃はまだ16:9じゃなくて4:3だったんだな、と書きました。今ほとんどの環境は16:9だと思います。とくにCP+は映像の祭典ということもあって上映機器も先端のものを使っているので、昨年にぼくが見たステージでそれ以外の比率のものはなかったように記憶しています。
4:3が主流だったときから16:9になり、間違いなく顕著なのは、縦位置の写真が劇的に減りました。撮ってないわけではなく、おそらく上映に不向きだからです。
webにも縦位置は向かないとされていて、でもロバート・フランク(だったと思う)がファッション誌に写真を持ち込んだとき「横位置が多くて扱いづらい」と注意されたらしいので、グラビア雑誌がメディアの華だった時代はむしろ縦位置が主流だったようです。
写真教室で教えるような、例えば「横位置は肉眼に近いから自然で落ち着きがあって共感しやすく、広角レンズを使ったとき広がりが表現しやすい。いっぽう縦位置は不自然な代わりに緊張感があり、とくに奥行きの表現に向いている」といったこととは無縁な、16:9での上映が増えたから、webで写真を見せることが増えたから、という事情で横位置の写真が増えているのだとしたら、現在の縦位置と横位置の比率は、写真の内容やモチーフの変化によるものではなく、時代背景によって強い影響を受けたことのひとつの例ということになります。
つづく。
そこについては第三話を楽しみに。
ブツの写真を借りるだけでも手間は劇的に減るんですが、どうしても馴染まないので仕方ないです。
カラーマッチングに厳しいけど写真の背景色やフォントにルーズとか、作品はすごいのに借りた資料をそのまま使うとか、そういうのに矛盾を感じて悩んだ時期あります。デザインについて考えたり、プレゼンの方法を考えるのは、写真家の役割じゃないと言われたり。
でもエレン・エイリアンという女性DJがいて、愛称「ビッチ・コントロール」と呼ばれていますが、彼女のライブを聞いて考えが変わりました。
やはり使われている写真は撮り下ろしですかぁ。スライドにピタリとハマる写真に、手間暇かけていることが滲み出ているので、毎回魅せられるとともに、次回はどうなんだろうと期待が膨らみます。