Radioheadが教えてくれた
1981年から洋楽を聴くようになって、ほぼブランクはないから、35年ぐらいになります。
前の世代と比較するのは難しいけれど、僕の世代は80年代の"ブリティッシュインベイジョン"や、MTVなど音楽ファン全体を巻き込んだ洋楽ブームがあったりして、周囲に洋楽ファンはすごく多かったです。
中学校はクラス9人しかいなかったのに、その仲間からTOTOの「ハイドラ」勧めてもらったり、高校のときに「やっぱピンク・フロイド聴かなきゃ」とレコードを貸してもらったり、素敵なおせっかい(*Pink Floydの名盤タイトル)をたくさん受けてきました。
今より情報は圧倒的に少なかったはずが、どんなふうにしてNew OrderやXTCと出会えたのか、いま考えると不思議。
高校を卒業すると、そんな仲間たちのなかには、もう積極的に音楽を聴かなくなったという人が増え、たまにラジオを流しているとか、職場でカラオケで歌うためにレンタルレコード店でベスト10のシングルだけ借りてMDにダビングしてカーステレオで聴いているとか。
好きな曲を集めたカセットテープを彼女にプレゼントする、みたいなハートカクテル的美学も過去のものに。隆盛を極めたFM雑誌やラジオ番組も衰退していきます。プレ・デジタル時代。
這いずり回る虫けらの最後の生き残りみたいな洋楽ファンは、とんでもなくマニアックになっちゃって「10ccはI'm not in loveだけはどうも好きになれない」とか言ってたりして。
気軽に洋楽の話ができる仲間は極端に減ってしまいました。
そうなると過去の名盤を聴きまくるか、オーディオを極めるほうにシフトするか、ひとつのジャンルをひたすら掘り下げていくか、どれかになることが多いです。
でも僕は新譜も聴き続けてきました。
何度かピンチはあって、U2があんなことになり、Bruce Springsteenの後ろ姿を見失い、Stingはこれまでのキャリアを否定するかのようなスタイルに変貌し、最大のピンチが90年代に入ってすぐにあったのだけれど、そこを救ってくれたのはRadioheadの存在が大きかったです。
Radioheadの凄さは新しさではなく、既成概念を壊していくところにあると思います。
これはRadioheadをこれから聴こうとする人に是非オススメしたいのですが、全部のアルバムを発売順に並べて、前のアルバムの最後の曲から次のアルバムの最初の曲に変わるとき、時間の変化、バンドの真価が、モーフィングみたいに美しく繋がっていく、その瞬間を楽しんでみて欲しいです。
どのアルバムから聴くのがいいかは、人それぞれなので、一枚を選ぶのは難しいです。デビューアルバム、一般的な最高傑作、最新作、ファンの間で最も愛されているもの、など色んな流儀があっていいはず。 でも僕なら、2ndアルバムから順に聴き続けて、とくにさっき書いたようにアルバムが変わるところに注意しながら、何度も、何度も、何度も聞き続けるのをオススメします。
いまホールやスタジアム級の会場でライブをやっているバンドでは稀有ですが、Radioheadはほぼ全公演でセットリストが違います。部分的にじゃなく、全曲が違う可能性もある。バンドのメンバーも楽じゃないだろうけれど、スタッフも大変なはず。そこに緊張感も生まれます。
そのため全公演を見る価値があると思っています。
とくに印象に残っているのは2001年の来日で、武道館1日と横浜アリーナ2日間あって、横浜アリーナ近くにホテルまでとって三日とも見に行きました。武道館は「なるほど、今はこんな感じなのか」くらいの内容で、横浜アリーナの初日もそこそこだったのだけれど、二日目は奇跡みたいなライブを体験できました。
「National Anthem」のイントロから始まり、アンコールで「the Bends」やったときには、自分がどうかしちゃうんじゃないかとさえ思ったくらい。前日のアンコール「Karma Pokice」~「Street Spirit」も素晴らしい流れだったけれど、これをどっちも同等のクオリティで演奏できるところが他のバンドにない魅力。
Radioheadは演奏力という点で突出しているわけではなく、どちらかといえば自分たちの限界を押し広げようとすることでバンドを大きくしてきました。だから新譜を最初に聴くと、いつも置いてきぼりにされたような気がします。俺の好きだったRadioheadはどこに・・・と。
でもその世界観は円環していて、プルーストのいう循環記憶のように、過去にまで影響を与えていく生命体のよう。